有栖川リドルのイギリス生活〜世界のどこにいても謎解きがしたい〜

謎解き部UK支部・有栖川リドルによる、脱出ゲーム・推理ゲームの活動記録。イギリス生活の日記・雑記。

東京イマーシブフォートの先駆け?ニューヨークで没入型演劇 "Sleep No More" を観てきた感想

ごきげんよう、謎解き部UK支部の有栖川リドルです。

みなさん今日も謎を解いていますか?

東京イマーシブフォートや、SCRAPが手がけるリアル脱出ゲームの台頭から、日本でだいぶ「没入型体験(イマーシブ)イベント」が人気になったという印象があります。

今回は、有栖川のイマーシブ原体験(?)について書いてみます。

ニューヨークの常設シアターにて上演中の、『Sleep No More』という、体験型の演劇です。

2014年の記憶を頼りに書きますので、記憶違いがあったり、仕組みが変わっていたり、2024年現在の状況と違うことがあるかもしれません。ご了承ください。

※2024年1月にニューヨーク公演は終了したそうです・・・悲しい・・・また行きたかった。

有栖川はSleep No Moreきっかけで、イギリスに移住したと言っても過言ではありません。

移住理由についてはこちらの記事に書きました。

catharsism.hatenablog.com

イマーシブ・シアター(没入型演劇)ってなに?

「イマーシブってなんやねん」と思った方は、こちらの記事をご覧ください。

catharsism.hatenablog.com

「どんなものか知っているよ」という方は、下に進んでください。↓

『Sleep No More』は、演劇の新しい形

2014年、友人たちとニューヨークへ旅行に行った。

旅の計画を立てているときに、幼なじみから「ニューヨークに行くなら、Sleep No Moreに行け!!」とオススメされた。

話を聞いてみると、何やらよくわからんのだが、面白そうな気配しかしない。

さっそく旅の友たちにプレゼンして、参加のお伺いをたてる。

説明するのが難しい謎のイベントであるうえ、チケットは決して安価ではないというのに、奇特な友人たちは「いいよ、行こう」と快諾してくれた。

ノリの良い友だちでありがたい。

※ここから先、上演内容に具体的に触れます。

大丈夫な方だけ、読み進めてください。

ネタバレしたくない方は、公式トレーラーだけ見ていってね。

youtu.be

基本情報1:セリフのない劇

『Sleep No More』は演劇作品であるが、セリフがない。ノンバーバルな劇である。

そのため、英語がわからなくても問題ない。

言葉の壁がないから、世界中の客を集められるのだ。

一方、役者にとってはそれが制約になる。

表情、行動、しぐさ+コンテンポラリーダンスだけで、キャラクターやストーリーを表現しなければならない。

役者のプロフィールを見ると、「俳優」ではなく「ダンサー」を名乗る人が多い。

ハリウッドスターたちが火付け役となり、次第に日本の役者も訪れるようになった。

確かに、同業者からすると「言葉が封じられた状態で演技をする役者」を見るのは、演技の勉強になるでしょう。

基本情報2:あらすじ

ストーリーはシェイクスピアの悲劇『マクベスが基になっており、そこにスパイスとしてノワール映画を混ぜた、という雰囲気。

仄暗く、どこか妖しげだ。

とにかく登場人物が多いので、予習をおすすめします。(どんなキャラクターがいて、どんな展開なのか)

基本情報3:ステージの規模がハリウッド映画のセット

ニューヨークのSOHO(ソーホー)エリアに、The McKittrick Hotelというビルがあります。

このビル一棟すべてが劇のステージです。(B1Fから5Fまであるらしい)

ホテルの各フロア、各部屋がステージです。

※ちょっと意味がわからないと思うのですが、このまま読み進めてください。

ビル外観はシンプルなので、本当にここであってる?と不安になった。

おそらく設定上の"ホテル"なだけで、外観はふつうのオフィスビル

でも開場時間に近づくと、観客と思われる人たちが、ビルの前にわらわら集まってきたので安心した。

開場時間になると怪しげなビルの扉が開き、建物内に入れてもらえます。

中は完全にゴシックな感じのホテル。

入ってすぐにレセプションとクロークがあり、ここで荷物を預けます。

このとき「この先の部屋はかなり暗くなっている。いざというとき、手ぶらで走り回れることがあるかもしれない。落とし物をしないように、服のポケットには何も入れるな」とアドバイスされます。

走り回る?????観客(オレたち)が????

※ちょっと意味がわからないと思うのですが、このまま読み進めてください。

荷物を預けると、一人ひとりに白い仮面&トランプのカード1枚が渡されます。

さあ、これで没入の準備ができました!

基本情報4:観客が役者を追いかける、新しい観劇方法

基本情報3で「ホテルの各フロア・各部屋がステージだ」と言いましたが、上演時間になると何が起こると思いますか?

いろんな場所で、同時多発的に違う劇がスタートするんです。

マクベスの登場人物の数だけ、ストーリーがある。

各キャラクターは、ホテル中の各フロア・各部屋に散らばっており、一斉に演技を始めます。

脇役にだって、メインの話に繋がる人生があり、エピソードがあるわけですから。

同じ時間軸の中で、キャラクターごとの違う物語が、クライマックスに向けて進行していきます。

ーーー同時多発劇を観客はどう観劇するのでしょう?

そう、「気になるキャラクターを物理的に追いかけて、物語を汲み取る」のです。

観客は時に走り、うす暗い舞台セット(ホテル)の中を歩き回る必要がある。

だからレセプションで「服のポケットに何も入れるな」とアドバイスされたんですね。

ーーーでも違う劇が同時多発するのなら、ひとりのキャラクターだけ追っていたら、他の話が観られないのでは?

はい、そのための措置はちゃんと用意されています。

Sleep No More体験記

イギリスの劇団Punchdrunkが生んだ、天才的な新しい鑑賞システム"没入型演劇"。

上演ルール

参加者は、上演中はずっと白い仮面をつけること。

参加者は、上演中は喋ってはいけない。

参加者は、キャストの妨げになる行動をしてはいけない。

参加者は、許可されたフロア・部屋を自由に歩き回り、小道具を触って調べることができる。

参加者は、キャストの後を追いかけて、ストーリーを辿ることができる。

同演目の上演は複数回行われる。

受付〜観劇までの流れ

クロークを抜けると、白い仮面をつけるように促されます。

ここからSleep No Moreの世界がスタート。

真っ暗で何も見えない通路を、仮面をつけたまま歩いたのを覚えています。

明るいところに出ると、確かバーみたいな空間に辿り着いた気がする。

そこがスタート地点かつゴール地点となり、上演が終わると戻ってくる場所となる。

上演中に観客が疲れたら、バーで休むことも可能。

キャストがどこからか現れ、上演中のルールについて説明があります。

キャストに誘われ、観客はエレベーターに乗り、上の階に連れて行かれます。

キャストの指示で特定の階で降りるのですが、クロークで渡されたトランプが鍵になります。

人によって渡されるカードの柄がまちまちなのですが、実はランダムにグループ分けされていたのです。

一緒に参加した友達とは、降りる階が違うので別れることに。

まさかの!一人になってしまい、すごく不安でした。

上演をMAX3回観られる

同じ演目がMAX3ループ上演されます。(観客の予約した時間による)

有栖川グループの場合、初回の時間枠を予約していたので、続けて3公演みることができました。(1公演あたり1時間くらい)

クライマックスのシーンが終わると、役者たちは舞台セットから姿をくらまし、観客だけが残されます。

上演開始のBGMが流れ始めると、舞台セットに役者たちが現れ、同じ演目をリピート演技しはじめます。

観客は、今度は違うストーリーラインを追うことができるのです!

自分で「知りたい物語」を選べるのが面白い。

分岐のあるノベルホラーゲームをプレイしているような、ドキドキ感。

3公演みられたとはいえ、また別のストーリーを目撃したくなる。

すごい、イマーシブシアターのシステム・・・!

主催側は自然にリピーター客を増やせるわけだ。

予算はいくら?豪華な舞台セット

ホテルまるまる舞台になるというのは、度肝を抜かされました。

そしてデザインが良い!!大変に有栖川好みでして、ゴシック感があります。

ディズニーランドのホーンテッド・マンションをイメージしていただきたいのですが、間取りが似ていました。ゴシック風お屋敷の間取りあるある。

傾斜が急な、木でできた大きな階段。

ボールルーム(舞踏室)のある、大広間。(役者とダンスする観客もいた)

家主のものと思われる豪勢な書斎。(引き出しの中や、書類をあさって読んでOK)

霧けぶる墓地。(室内のはずなのに、そこは外だった。土と芝生を踏み締める感触があり、墓地が作られていた。)

室内は「その時代の明るさ」を再現しているのか、目を凝らさないと見えないくらい暗い。

燭台のあかり、ランプのあかりで、ぼんやりと誰かの顔が見える程度の明るさ。

日本でイマーシブ・シアターは再現できるのか

有栖川はまだ東京イマーシブフォートに行けていないので、具体的に比較ができません。残念。

ですが、東京イマーシブフォートの運営会社「刀社グループ」(森岡毅氏)は、イギリスの劇団発祥のイベントを参考にしたと言っているので、絶対Sleep No Moreじゃん!Punchdrunk(Sleep No Moreの運営会社)じゃん、と思っています。

再現条件1: 舞台セットにコストを惜しむべからず

本家がハリウッド映画並みといいますか。

ビル一棟買いして、貴族のお屋敷やら商店やら墓地やらを作り上げてしまっている。

観客が足を踏み入れれば、否が応でも物語に引きずり込まれてしまう。

東京イマーシブフォートは、お台場ビーナスフォートの跡地を開発したのは、うまい空き地を見つけたな、と感心しました。

ビーナスフォート自体が元々、天井には空の絵が描かれていたり、石畳になっていたり、イタリア風(テーマパーク風)になっていたので、それをそのまま活かせますもんね。

イチから舞台セットを作る必要がなく、少しリフォームする程度で済んだのではないでしょうか。

Punchdrunkの条件に近いものをクリアしている気がします。

再現条件2: 同時多発ストーリーとセリフについて

東京イマーシブフォートのトレーラーや噂を見る限り、ふつうに役者はセリフがありそうですね。(なんなら観客と喋っている)

演劇というよりは、観客が謎解きをするのがメインのイベントとなっていそう。

ストーリーは、謎解きゲームとしての分岐は発生するのかもしれないですが、同時多発には起きていなさそう?

謎解きゲームのセットが豪華版みたいなイメージなのでしょうか。

また、インバウンドの客を狙っていくという戦略を掲げていた気がしたのですが(うろ覚え)、セリフある前提のイベントということは翻訳版をリリースするのかな。

 

有栖川は、役になりきった人に話しかけられると、素で応えればいいのか、世界観にあわせて応えればいいのかわからない+恥ずかしいという気持ちになります。

ディズニーランドやテーマのある脱出ゲームとか、それで戸惑いがち。

恥ずかしくない人は、東京イマーシブフォートをきっと楽しめるのだろうな。

海外だと、役になりきった人に合わせて演じられるんですけど、日本だと恥ずかしくなっちゃう。なんだろうこの違い。

イマーシブ"シアター"ではなさそう

勝手な予想。

Punchdrunkのシステムを全てコピーして再現することがゴールではない。(オリジナル性なくなってしまうから)

システムを参考にした場合、「ディズニーランドのように世界観を表現する要員が案内する」「舞台セットの常設施設を作る」部分を再現し、東京イマーシブフォートができたのかな。

役者の演じる没入型演劇ではなく、(ディズニー風)キャストのいる没入型謎解きを目指したのだと予想します。

まとめ

2024年1月にニューヨークのロングラン上演がついに終了したということなので、誰にも「行ってみて」と勧めることができなくなってしまった!かなしみ。

日本で代替イベントがないので、それを勧めることもできない。もどかしい。

(有栖川的に、東京イマーシブフォートは別物のイベントだと思っている。)

謎解きや脱出ゲームとはジャンルの違う、衝撃的な面白さがイマーシブ・シアターだ。

イギリス・ロンドンでは、Punchdrunkが新作を毎年のようにリリースしているので、できるだけ参加するようにしています。

また新作に参加したときはレポを書きたい。